三度目の夏
この年の初夏は
静かなものです
あれだけ賑やかだった子供たちも、もう居ません
誰も彼もが違う場所へと去って行きました
静まり切った部屋は
生まれた時から
ずっとそうだったはずなのですが
cho-ちゃんは
すっかり落ち着きを失います
梅雨が明け
日差しは、部屋の奥までは入らず
植物たちや浮遊する空気の焦げる匂いが通り過ぎ
ポン君が
yuruや子供達の居なくなった場所を眺めると
急にcho-ちゃんは鳴き始めます
甘えなのか、苛立ちなのか
小さな体に満ちた訴えは
一体、どこへ向かうのか
太いようで、か細い鳴き声
いつまでも止まない声に
ポン君はそっとcho-ちゃんを抱きかかえ
白く柔らかな魂に唇を寄せ
軽い眠りにつきます
風はぬるくとも
混ざり物のない光りに包まれた
穏やかな日々にあって
何もかもが急ぎ足で
目の前を去っていくようです
突然の死
穏やかな春は
いつまでも続きそうに
暑くなりそうになると、冷え
肌寒い日があったかと思うと、身も心も緩めてしまう日の繰り返し
時が
暑い季節を目指しているなどとは
思いもしない
いつもの場所に、yuruは居ました
様子が違う
と、違和感はすぐに
恐怖へと入れ替わります
何度もこんな光景を見てきました
その度に立ちすくむ
それは、ポン君も同じです
何が起こったのか
辿り着くまで
感情は押し殺され
yuruの
倒れ込んだ姿は
あまりに綺麗で
訪れた「死」からは
一番遠い
何を発しようと
声は、ただ虚しく
それでも、発せずにはいられず
どうやっても動かないyuruを前に
部屋は呑み込まれます
「さっきまで、あんなに元気やったのに」
ポン君の悲しみの意味を知らずか
cho-ちゃんは
yuruのすぐ横で
いつもと同じ顔
ご機嫌に餌をついばみます
抱きかかえるyuruは
まだ温かく
ついさっきまで
「生」の中にあったことを
否が応にも証明します
春の兆し
大嫌いな冬を
もう二度過ごし
すっかり人生のベテラン気取り
澄ました顔のcho-ちゃんは
微かな
ガラス越しの温もり
太陽の匂いに、心は躍ります
となりには、いつしかカップルになった二つの影
若く睦まじい光景に
落ち着きを奪われ
ポン君を再び不安にさせます
孵るはずもなくとも
新たな卵を宿すよう
身体の弱いcho-ちゃんへも
天は容赦なく求めます
そんな宿命を知るはずのないyuruは
いつまでも無邪気に
そして勇んで、cho-ちゃんへの元へと駆け寄ります
重なり合う二つの姿に
ポン君は
また溜息の日々の始まりです
yuruの昼寝
yuruは止まり木に身体を預けます
纏う羽毛はふっくらと
足をすっかり仕舞い込んで
お地蔵さんのように
冬の寒さを耐えます
寝ている間は
夢心地
遠い昔を懐かしむような顔で
慣れ親しむ歌を聞いているかのように
時に、止まり木から落ちそうになるくらい
眠りに落ち
舞い上がる夢を見ては
飛び起きる
こんな小さな体にも
溢れるほどの人生が
もう積み上げられているのです
鳥の家
子供たちは
すっかり雌雄の羽紋になりました
nikeは雄の紋様
頬は赤く染まり、脇には水玉模様が浮き出ています
もう幼き姿は遠き日のようです
もう一羽の雄のtomaは
まるで落ち着きません
昨日まで一緒に遊んでいた雌のkoaとtume相手に
悲しい性を丸出しに
何度フラれてもお構いなしに
胸を立て、ひたすら追い掛けます
koaも
tumeも
もう扱いは慣れたもの
そそくさと彼を避け
優しいnikeの後ろに回ります
tomaはもう追えません
nikeの引き摺っていた脚は
羽ばたくようになると
嘘のように動き出し
今では何も無かったかのように、しっかりと枝を掴みます
最初からnikeは
こうなることを知っていたのかもしれません
tomaの熱い恋は冷めないようで
一人陽気に
ステージで歌い、踊り、騒ぎ続けます
nikeの見違えるほどの逞しい姿にポン君は
ショーの最中のtomaの胸を
指で突いて、微笑みます
二羽は他へと巣立ち、残るはこの四羽の子供たち
誰も彼もに話し掛けるポン君の後ろで
cho-ちゃんは今日もひたすら
眠り続けます
手離れ間近
子供たちは
もう好き勝手
いつも六羽
あっちへ飛んでは、こっちへ
止まり場を見つけては
仲良く並んで一休み
先輩鳥のcho-ちゃんは
今日も大人しく寝ています
一羽だけ、いつも遅れて辿り着く
ふんわりとしたクリーム色に
まん丸い大きな目
一番最後に生まれたnikeは
産まれ落ちた時から、足が動かなくとも
負とは思いもしていません
やっとのことで皆に並ぶと
誰よりも平然とすまし顔
それを見透かしてか
皆はすぐに次の場所へと走ります
nikeは羽根を繕う間もなく
追い掛けます
ポン君はどんなであろうと
差別はしません
夜、寝床へ入れるとき
はしゃぎ回る子供たちを
鬼のように目を吊り上げて追い詰めます